日本ソーシャル・イノベーション学会は、9月15日・16日に2024年度の第6回年次大会を開催いたします。今年の大会では、ソーシャル・イノベーションに関するさまざまなテーマが取り上げられます。
「B:研究・実践ポスター発表」は、各発表者がソーシャル・イノベーションに関連する理論や実証研究・事例報告をポスターにて発表する区分です。事前に提出された「報告要旨(500字程度)」に基づき、厳正な審査の結果、12件のポスター発表が採択されました。
9月15日の17時00分〜18時00分の時間で、会場にて各発表者がポスターを用いた発表を行います。
このページでは、各ポスター発表の概要を掲載いたします。是非ご覧ください。
村井拓人(神戸学院大学)
【取り上げるテーマ】
日本におけるアーティスト・イン・レジデンスは、地域創成と文化振興の双方への効果が期待され発展してきた経緯がある。また、人口減少時代に突入した我が国では、居住地域以外の地域で活動する人々を指した「関係人口」が、新たな地域づくりの担い手として期待されている。 そこで本研究の目的は、人がアーティスト・イン・レジデンスに関わりを持つ前から、関わりを持ち始め、地域で活動するに至るまでのプロセスを明らかにすることとした。本研究の分析フィールドは、阪神淡路大震災後、地域創成と文化振興を推進してきた、日本のアーティスト・イン・レジデンスの分水嶺的事例である「特定非営利活動法人 芸術と計画会議(以下、C.A.P.)」と定めた。
【研究手法】
人がC.A.P.のアーティスト・イン・レジデンスに関わりを持つ前から、地域活動するに至るまでの内面的変容を取り扱うことになることから、被験者と筆者との1対1の半構造化インタビューを実施し、次にグラウンデッド・セオリー・アプローチを用い分析した。
【主たる結論】
人がC.A.P.のアーティスト・イン・レジデンスに関わりを持つ前から、関わりを持ちはじめ、そして、地域の活動者となるまでのストーリーラインが確認でき、さらに図式化することができた。
相原洋子(岡山大学)
竹村和子(兵庫県立大学)・Xaing Yucheng(岡山大学)
都市化,高齢化,国籍を超えた人の移動は現代社会の大きな潮流であり,日本も都市を中心に在留外国人の高齢化が進んでいる。住み慣れた地域で最期まで尊厳をもって暮らし続ける「地域包括ケアシステム」の構築において,文化や言語の違いなど外国人はエイジング・イン・プレイスの実現に様々なハードルがあると考える。在留外国人にとってウェルビーイングにつながるエイジング・イン・プレイスとは何を意味するのか,本研究は世界保健機関が提案する“Age Friendly City”の概念をベースとし,物理的環境・社会的環境・心理的環境の要因間のつながりをシステム思考を用いて探索的に研究することを目的とする。本誌ではシステム思考アプローチの活用する利点と研究プロトコルの妥当性について報告する。対象地域は在留外国人の高齢化率が高い大阪府,兵庫県,神奈川県,愛知県とし,外国人数推移を図式化し(変化のパターングラフ),各地域の行政,支援団体等のステークホルダーの把握,当事者のインタビューとアンケート調査によるループ図の作成を行っていく。システム思考を用いることで,高齢施策,多文化共生,都市計画の3つの行動間のフィードバックの相互作用から生じる,各アプローチとエイジング・イン・プレイスに関連する長期的な政策提言につながることが期待できる。
服部篤子(一般社団法人DSIA)
馬渡一浩(一般社団法人DSIA)
栃木県那須町の地域創生に寄与すること、及び学生たちの意欲を行動に移す教育機会の提供、この2つの目的をもって、事業化の可能性を検討する。那須町は、2017年に、馬渡が大学教員時代のゼミ生たちが研究を通じてご縁をいただき、依頼良好な関係が続いている。本研究はそのつながりの上に企画されたものである。具体的には那須町の那須湯本地区を取り上げる。同地区は、開湯1300年の歴史ある那須温泉として多くの観光客が訪れる地区。しかしながら、高齢化と人口減少により温泉街の土産物店や宿泊施設の後継者不足や担い手不足もあり廃業となる施設も出てきている。那須町全体でも、総人口は昭和25年(1950年)の31,241人をピークに減少に転じ、令和2年(2020年)には23,956人(国勢調査)となっている。また、社人研が平成30年3月に公表した推計によると、那須町の人口は今後減少傾向が続き、2045年には15,241人まで減少すると予測されている。人口減少が進むことで、地域における担い手の減少、地域内消費縮小による産業の衰退、まちの賑わい減少による地域魅力の喪失など、住民生活への様々な影響が懸念されており、過疎化対策は喫緊の課題である。そこで、那須町の中でも歴史ある湯本地区をケースとして取り上げ、学生たちの視点と発想を生かす中で、中長期的に有効な活性化施策を立案・実行し、那須町の活性化の一助となりたいと考えた。そして、そのプロセスを、学生たちのラーケーションの機会としても活用できるように組み立てていきたい。活性化の大きな方向性としては、ただ単に以前の賑わいを取り戻すことを目指すのではなく、この活動が社会的なイノベーションを生み出す源泉となることで、那須町全体の創生の新たなシンボルともなるものにしていきたい。チャレンジを面白がる人が寄り集まり、これからの人々が生きやすい環境や、新たなつながりのしくみを生み出す場を形づくっていければいい。今大会での発表は、第一段階の中間発表になる。この8月に、活性化施策の大枠と教育機会としての可能性を探るべく、若手何名かで実験的な泊りがけセッションを実施する。その成果報告が中心となる。
小泉裕一(神津島村の福祉を考える会 / 神津島村役場保健センター)
本研究の目的は、地域に暮らす当事者の視点で、個人の想いを起点とした地域活動を創発するプロセスを、知識創造理論に基づきモデル化することである。本研究の方法は、2022年から開始した神津島村の福祉を考える会の活動(シマフク)を、アクションリサーチの手法で実践し活動プロセスの分析を行った。シマフクは神津島村に暮らす個人の地域に対する想いを起点とした住民活動で、対話や小さな場づくりを繰り返すことにより、様々な実践が創発された。具体的な活動として、神津島村の福祉分野において、小学校と協働した福祉啓発の授業開発や、神津島村の運動会で誰もが参加できるインクルーシブな競技の実践をしてきた。本研究の分析では、対話内容や場づくりの動態から、シマフク活動をSECIモデルで分析した。本研究の結果は、シマフク活動の中でも発展した活動と停滞した活動が生まれ、発展した活動ではSECIモデルが循環し、やりきる決意の醸成や、越境した関係性の構築、前向きな目的形成などがキーアクションとなっていたことが明らかとなった。本研究の結論として、地域の文化や関係性を基盤とした暗黙知が基盤となり、未来志向の前向きな場づくりや行動主体のリーダーシップの発揮を通して、地域活動が創発するプロセスモデルを考案した。
花本想良(山脇学園高等学校)
今回のポスター発表では、「栃木県奥日光地域」で今年から進行中の「まち歩きARアプリ」の概要の説明と経過報告をする。 「まち歩きツアー」は観光客と地域の住民を繋げる観光形態であるが、参加者層の偏りやまち歩きガイド確保が課題である。まちが既に持つ特徴も観光資源として捉え、「まち歩き」を積極的に推進することは、地域を訪れた人にまちの魅力を伝える、そして地元住民にはまちの魅力を再認識してもらう効果がある。そこで、様々な地域で導入されているのが地域で暮らすガイドと供にまち歩きを行う「まち歩きツアー」である。しかし、ここには2つの課題がある。
1.参加者が高齢者層に偏っている
・現在のまち歩きツアーでは参加者の約6割は50歳以上である
・10〜20代の参加者は約2割弱。
2. まち歩きガイド確保は難しい
・ガイドは地域を深く理解し、様々な面での解説能力を必要とする。
・幅広い時間帯で一定数のガイドを集めなくてはならない。
この課題を抱える地域では、「地域主体のまち歩きツアー」の導入意識があっても仕組み構築の実現が困難である。 この課題に対し、本プロジェクトでは栃木県奥日光地域を対象にAR上のまち歩きガイド機能を導入したアプリケーションからのアプローチを提案している。 まち歩きツアーのメリットとARアプリのメリットを掛け合わせることで、さらなるまちの魅力発信を目指す。
【プロジェクトの経緯】
2024年5月、「奥日光地域づくり住民協議会 観光部会 第1回勉強会」にて、まち歩きとまち歩きARアプリの概要を説明。 飲食店経営者や住人、自治体など計14名(+オンライン参加者)の参加者にアンケートを依頼し、「まち歩きARアプリの導入により、さらに観光客に地域の魅力を伝えることができると思う」と11人が回答。他の回答項目からも、まち歩きARアプリの使用が、若い客層の誘客のきっかけを創るだけでなく、新たなまちの魅力発信手段としての価値創出や、観光客と地域の事業者・飲食店・市民とコミュニケーションが行えるプラットフォーム構築への期待もある。 2024年8月、アンケート結果も踏まえたアプリのプロトタイプを制作し、奥日光の住民や観光客に導入体験をしてもらいフィードバックを集める(予定)。
【まち歩きアプリの概要・主な機能】
現在、まち歩きアプリはiOSを対象としたネイティブアプリとして配信する予定。主な機能は下記の通りである。
・ロケーション型ARを用いた店舗、観光スポットの情報提示
・AR空間上の3Dキャラクターがガイド役となるまち歩きツアー機能
・地域住民や事業者による地域の魅力発信を実際の場所と紐付け、AR上で確認できる機能
日野皐汰朗(同志社大学大学院総合政策科学研究科)
寺院空間の持つ場所の力を測定するため、心理的な影響の調査を試みた。今回の研究・実践ポスター発表では、調査結果を踏まえた考察と今後の展望を報告する。 調査に至った背景として、報告者は寺院コミュニティ活性化によるまちづくりをテーマに研究をしている。寺院を支える檀家、来寺者、あるいは寺院のある地域に住む人々との関わりを強めることで、寺院や寺院のある地域を次世代へ継承する気概を創出したい。そのために、そもそも寺院空間には人が集まる場として意義があるのか?という観点から、社会実験として、心理的な効果の測定を試みた。調査は、研究対象寺院とその近所にある書道教室にご協力をいただき、2日にわけて実施した。(午前に大人の部、午後に子どもの部が実施された。参加者の内訳は、午前:60-70代男女9名、午後:9-12歳男女11名 であった。)
調査方法は以下に記すとおりである。
・1日目、まず書道教室にて書道を実施する。参加者が教室に来るタイミングはバラバラであるため、来た段階で参加者には脈拍測定器(スマートバンド)を腕に装着してもらう。
・各参加者が書道を終了し、帰宅するタイミングで、その時点の気分を色で表現してもらう。回答後、8色の画用紙から、気分に最も近い色を選んでもらう。 ・2日目、翌週の同じ時間、寺院の本堂にて、同じ参加者が同様の流れで実施する。
・書道終了後、気分を色で表現してもらうことに加え、記述式のアンケートにも回答してもらう。
調査の結果、脈拍の変化や色の表現からは、明らかな違いを見出すことができなかった。そこで、参加者への半構造化インタビューを計画・実施(予定)し、心理的な効果を数値化することを試みる。映像記録や追加のインタビュー調査から、寺院空間が心理的にどのような影響を及ぼすのか、寺院空間の意義を議論したい。
加藤由花(東北大学)
西出優子(東北大学)
高齢化率が40%を超える地域が複数存在するなど、少子高齢化が特に深刻になっている東北地方において、産業が衰退した地域が再活性化するにはどうすればよいか。本報告の目的は、ソーシャル・イノベーション創出におけるリーダーシップのダイナミックスを、高齢化が深刻な地方において一度は衰退したが新規開業を相次ぎ生み出し再活性化した商店街の事例から明らかにすることである。研究手法としては、宮城県六日町通り商店街を対象に、その再活性化のプロセスにおいて、どのようなリーダーシップがどのように発揮されていったのかについて、商店街の関係者にインタビュー調査を実施した。分析のフレームワークとして、まちづくりにおけるソーシャル・イノベーションの理論的課題を提示した木村 (2015)や地域経営組織の発生をソーシャル・イノベーションの視点から分析した中嶋(2019)等の先行研究の視点も取り入れた。
調査対象地域の宮城県栗原市は、宮城県北部に位置し、面積の約8割近くが森林、原野、田畑の田園都市であり、高齢化率が41.9%(宮城県2023)と、県内でもトップクラスである。栗駒岩ケ崎にある六日町通り商店街は、高度経済成長期をピークに、交通インフラの変化や大規模スーパーの進出等により2008年頃に青果店1店を残し、生鮮食品関連の店は廃業していった(六日町通り商店街HP)。このような「シャッター商店街」はどこの地方自治体でも課題であるが、この六日町通り商店街は、2015年頃から2023年までの約8年の間に20店舗ほどの新規開業があった。
調査の結果、一度は衰退した商店街を再活性化させ、イノベーションを創出するためには、特定のリーダーだけが行うリーダーシップではなく、多様なステイクホルダーが「他者への影響力」や「コレクティブ・インパクト」という広い意味で捉え直し、複層的な視点やマインドセットをふまえたリーダーシップをとる有効性が明らかになった。こうしたリーダーシップは、他の地域の再活性化やイノベーション創出にも適用できる可能性があるのではないか。
西尾直樹(株式会社聴き綴り本舗)
谷口知弘(福知山公立大学)・嘉村賢州(NPO法人場とつながりラボhome’s vi)
2008年から5期7年継続した京都市未来まちづくり100人委員会(以下、100人委員会)。 100人委員会は、幅広い分野の市民の参加を得て、従来の行政の縦割りを排し、今後のまちづくりの方向性や具体的な取組方策について、白紙の段階から議論する「市民組織」として、平成20年9月に設立された。
【京都市未来まちづくり100人委員会コンセプト】
①市民自らがテーマを設定し、白紙の段階から議論する「市民主体の議論」!
②提言するだけではなく、自ら実践する「行動する委員会」!
③行動、実践をさらに議論に反映させる「進化する委員会」!
④公募・プロポーザルで選ばれたNPO等の市民活動団体による「市民主導の運営」!
この100人委員会を題材とした事例研究を行うことで、他地域での実践に活用できる虎の巻の作成を目指す。具体的には、地域のマルチステークホルダーによるソーシャルイノベーションの仕組み、手法、ノウハウの可視化、体系化を行っていく。 今回のポスター展示では、まず初期の取り組みの背景や、プログラムの設計、運営体制の構築、結果として生まれた成果(チーム名と活動)など、ゼロから形作られていくプロセスを可視化する。具体的には、当時のプログラム設計資料と、実際に行われた会議の記録、当時の関係者へのヒアリング等で集めた情報を整理して図示していく。
伊藤敏孝(神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科)
人生100年時代を迎え、創薬・医療機器など健康・医療分野や公衆衛生分野の社会課題解決が求められる中、コロナのパンデミックを経て我が国の内発的なヘルスイノベーション・エコシステム実現への期待が一層高まった。変革期の社会課題解決には、戦後の復興を遂げた高度成長期の成功体験から、国を挙げた政策推進が行われる傾向がある。東京圏域では、2010年代に国と神奈川県・川崎市・横浜市による京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区などが推進された結果、重層的なホットスポットが形成されている。エコシステム・ネットワークにおいては、これら政府セクター主導の推進政策に加えて、業界団体や民間企業を中心とした非政府セクターによる複数の中間支援機能が存在する。
本研究では、東京圏域のエコシステム形成に係るキーパーソンを対象としたインタビュー調査を実施し、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析し、ヘルスイノベーション・エコシステムの形成プロセスを考察した。その結果、重層的で多中心性を成すネットワークの相乗効果が、イノベーション創出における不確実性の低減やエコシステム全体の継続性に一定の効果があることが確認された。
西出優子(東北大学)
上西智子(東北大学)・福井大輔(株式会社未来企画)
人と人や地域とのつながりが希薄化し、社会的経済的格差が拡大し、孤立・孤独の問題も顕在化している現代社会において、多様な世代が共に協力しあい、生き生きと暮らせる多世代共創社会を構築するにはどうすればよいか。多世代交流による地域共生やソーシャル・イノベーションの創出については、保健・福祉(藤原2022)や環境(服部 2023)・建築住宅等の視点から研究が行われてきたが、人生のライフサイクルや生活全般・生きがいも内包した研究はまだ緒についたばかりである。
こうした状況をふまえて、本報告では、地域においてどのように多様な世代が交流し助け合い、学びあい、地域づくりに関わり、個人・組織・地域のウェルビーイングを高めることができるかを事例調査を通して明らかにすることを目的とする。研究手法として、宮城県仙台市で2011年に創業し、小規模多機能型居宅介護事業をはじめ、福祉や食などの多世代交流複合施設等を運営する株式会社未来企画を対象に、代表への訪問インタビュー調査などを実施した。
その結果、未来企画は、福祉事業者NPOや子育てサークルなどの地域団体や行政・企業とも連携協働しながら、子どもから高齢者まで「それぞれの役割の中で、心豊かに暮らす」(福井2024) をコンセプトに、長い人生に必要不可欠となる医食住学を掛け合わせた多世代交流事業を戦略的・複層的に展開してきたことが明らかになった。特に、社会や地域の動向や課題を客観的に分析したうえで、経営者のネットワークや傾聴力を駆使し、サービスの利用者やスタッフ、地域の声やニーズを丁寧に聴き、既存事業や地域とのつながりもふまえて、多様なステイクホルダーを巻き込みながら次々と事業化し、既存・新規事業の相乗効果を生み出してきた。例えば、これらの事業は、医療・福祉・教育から地域づくりまで、多層的なアプローチで、子どもも子育て世代も高齢者も、障害のある人もない人も、生き生きと交流できるスペースや機会を創出している。
福祉の視点から教育や生きがい・地域づくりまで複層的にアプローチしている本事例は、多世代が共創する持続可能でウェルビーイングな人・組織・地域をデザインしていくうえで、有用な示唆を提示している。
山岸慧(武蔵野美術大学大学院 造形構想研究科 造形構想専攻 クリエイティブリーダーシップコース)
高齢化と医療負担の増加に伴い、2030年に向けた医療のあり方として、地域共生社会の実現が議論されている。その中で、医療従事者や医療機関が地域社会とつながりを築く取り組みが注目されており、他職種、特に非医療従事者との関わりも重要視されている。一方で、従来の専門知識に基づいた医療行為とは異なるアプローチが必要であることや、非医療従事者と協働を行う難しさも存在している。
本研究では、長野県軽井沢町にある診療所「ほっちのロッヂ」を事例として、地域医療におけるソーシャルイノベーションについて考察する。「ほっちのロッヂ」は、世代や属性が異なる人たちが集う場をつくりたいという想いから設立され、外来診療、在宅医療、病児保育、訪問看護ステーションを提供している。また、地域住民やアーティストとのイベント開催を行うなど、文化拠点としての役割も果たし、地域とのつながりを築いている。本研究では、ほっちのロッヂでの業務同行や半構造化インタビューをもとに、ソーシャルイノベーションの観点から多職種連携とコミュニティ作りについて考察する。また、今後の展望として、医療機関と地域社会がつながりを築く上で必要な要素を検討する。
奥野美里(inter-view & dia-logue lab.(きくかくラボ ))
陳情や要請だけではない市民の声を積極的に政治・行政に反映しようと、市民アンケートや市民参加型のワークショップ、ヒアリングなど、さまざまな取り組みが行われているが、それらの試みは、一般市民、いわゆるマジョリティの声にアタッチしているのだろうか。あるいは、多様な声を拾えているのだろうか。
陳情や要請を行う市民、アンケートにしっかり意見を書く市民、市民参加型のワークショップに手を挙げて参加する市民は、政治に関心が高く、自分自身の考えを主張できる層であり、実は一般市民とはかけ離れているのではないだろうか。逆説的だが、政治に関心のない、あるいは政治に何かを求めても意味がないとあきらめている層、サイレント・マジョリティこそ、一般市民の中道であるともいえるだろう。
それでは、どうすれば、そのような市民たちの声を政治・行政に届けることができるのか。あるいは、政治・行政への関心を持ってもらえるのか。そんな問いへの答えのひとつとして、筆者は、2024年6月より、京都市役所前ひろばプロジェクト(月1回夕方、ひろばに賑わいを生み出す京都市と市民有志の協働プロジェクト)の一環として、「見えるまちかど対話」と名付けた実践にチャレンジしている。広場を通りがかる人に声をかけ、インタビューや対話を行い、その内容を模造紙やホワイトボードに書き留め、さらにそれを見た人と対話を重ねていく手法である。話された内容を書き留められることで、時間を超えて対話が積み重ねられ、誰かの課題をまた他の誰かが知り、考えるきっかけを生む仕掛けとなるというもの。
6月21日(金)夕方に実施した第1回の「京都市役所前ひろば・見えるまちかど対話」では、通りがかりの市民や手伝ってくれた学生と、京都市役所前ひろばプロジェクトの様子を見に来た複数の京都市役所職員や市会議員が対話する場面も生まれた。 本報告では、さらに7月、8月と実践を積み重ねた結果と、声を出さない市民の声を集め、政治や行政に届ける仕掛けについての考察を発表したい。